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![]() | 『新訂 魏志倭人伝・後漢書倭伝・宋書倭国伝・隋書倭国伝』 岩波文庫 |
不盜竊,少訴訟。其犯法,輕者沒其妻子,重者滅其門戸及宗族。尊卑各有差序,足相*臣服。
訳
窃盗がなく、訴訟も少ない。法を犯し、軽ければ妻子を没収、重ければその一門および宗族を取り潰される。身分には異なる序列があり、皆それを守っている。
注
| 臣服: | 服する。 |
|---|
(備)「尊卑各有差序,足相臣服。」は、「身分は複雑に作られ、互いに秩序を守るのに役立っている」ということか。
收租賦,有*邸閣。國國有市,交易有無,使*大倭監之。
訳
租税の収集のための建物(官署)がある。国々には市があり、取引の有無は「大倭」に監督させている。
注
| 邸閣: | 租税(年貢)を集めて貯蔵しておくための役所兼蔵のような建物のことではないか。「説文」で「邸」は「屬國舍」で「官舎」のこと。「閣」は「所以止扉也」で「門」のこと。 |
|---|---|
| 大倭: | 単に倭の大人(身分のある人)のことか、それとも官名か。 |
(備)「大倭監之」は政府が把握している収穫量以上のものが市で売買されていないか監視していると思われる。
自女王國以北,特置*一大率,檢察諸國,畏憚之。常治伊都國,於國中有如*刺史。王遣使詣*京都、帶方郡、諸韓國及郡使倭國,皆臨津*搜露傳送文書、賜遣之物,詣女王不得差錯。
訳
女王国の北には、特に一大率を設置し、諸国を検察させ、諸国はこれを畏れている。常に伊都国を治めるため、伊都国には「刺史」のような官吏を置いている。王が中国の都、帯方郡、朝鮮諸国に使者を派遣した際と帯方郡の使者が倭国を訪れる際はすべて、港で下賜された文物を検査し、女王に届く際、誤りがないようにしている。
注
| 一大率: | 警察機関のようなものか。「檢察諸國(諸国を検察する)」とある。 |
|---|---|
| 畏憚: | 「畏」は「廣韻」で「畏懼」、「增韻」で「忌也。又心服也。怯也。」。「憚」は「説文」で「忌難也」。いずれにせよ、「一大率」はみんなから嫌われていた。 |
| 刺史: | 古代中国の官名で、漢代には郡県を監察する官吏、宋元時代には州長官の別称として用いられた。 |
| 搜露: | 恐らく目録と実物を付き合せて検査したのだろう。 |
| 京都: | 中国の都。魏(220~265年)の都は洛陽である。 |
(備)まず女王国より北にある国々が、政治上重要だということ。さらに伊都国には派遣官を常駐させるほどの徹底ぶりで、大陸外交上、伊都国の重要性は突出しており、常にこれを直接の支配下に置いているのである。
下戸與大人相逢道路,*逡巡入草,傳辭説事,或*蹲或*跪,兩手*據地,為之恭敬。對應曰*噫,比如然諾。
訳
家来が大人に道で出会うと、よけて草むらに入り、言葉をかけ、あるいはしゃがみ込み、あるいはひざまづいて、両手を地につき、敬意を表す。(大人は)「イ/ヤイ」と応じて、承諾する。
注
| 逡巡: | 「逡」は「説文」で「復也(引き返す)」。後ずさりしながら道端によける動作だと思われる。 |
|---|---|
| 蹲: | しゃがむこと。「説文」で「踞也」。 |
| 跪: | ひざまづくこと。「説文」で「拜也」。 |
| 據: | 手で支えること。「説文」で「杖持也」。両手を地面に付いて、礼をすることと思われる。 |
| 噫: | イ/ヤイ。「廣韻」では「於其切(yi)」、「説文」注釈では「於介切(yai)」。 |
(備)身分による規則の厳しさを思わせる。「習俗 - 老若男女」では、酒の席で「大人」に会っても、「手を合わせる/手家を打つ」ことで済んだが、道で行き交う時(平時)の礼法は非常に厳しいようだ。
其國本亦以男子為王,住七八十年。倭國亂,相攻伐歴年,乃共立一女子為王。名曰卑彌呼,事*鬼道,能*惑衆,年已長大,無夫壻,有男弟佐治國。自為王以來,少有見者,以*婢千人自侍,唯有男子一人給飲食、傳辭、出入居處。宮室、樓觀、城柵嚴設,常有人持兵守衛。
訳
もとは男王で、70~80年在位した。倭国が乱れ、諸国は長年戦乱が絶えず、そこである女子を王として共立した。名を卑弥呼といい、霊能に長け、人を惑わすことができる。年は若くないが結婚しておらず、男が統治の補佐をしている。王になってからは、わずかの人しか会ったことがなく、千人もの奴婢が世話をしており、唯一1人の男子が飲食を給仕し、言葉を伝え、部屋に出入している。王宮、楼観(たかどの)、城柵は厳重に建てられ、常に誰かが兵を従えて護衛している。
注
| 鬼道: | 「鬼」は「説文」で「人所歸為鬼」で、「霊」「魂」の意味。「鬼道」は霊媒とか霊視のことだろうか。 |
|---|---|
| 惑: | 乱す、惑わす。「説文」で「亂也」。 |
| 婢: | 奴婢、女の奴隷。「説文」で「女之卑者」。 |
(備)女王は諸国がともに認めるほどの政治的あるいは宗教的な権威をもともと持っている。当時の「倭人」社会で、古くから認められてきた神聖な血族かと思われ、そのために諸国はその権威を戦乱を治める手段に使った。本人は霊能を本業としているのであるから、もしかするとそういう家系だったのかも知れない。弟が実際の政務を行っていると見て取れる。
女王國東渡海千餘里,復有國,皆倭種。又有*侏儒國在其南,人長三四*尺,去女王*四千餘里。又有*裸國、*黑齒國,復在其東南,船行一年可至。
訳
女王国から東に海を千余里渡ると、また国があり、みな倭民族である。また侏儒国が南にあり、人の身長は3~4尺、女王国から四千里ある。さらに裸国と黒歯国が東南にあり、船で1年かかる。
注
| 侏儒國: | 「侏儒」は「背が低い人」という意味がある。だからこの後に人の身長が書いてある。よって国名は音訳ではなく意訳である。 |
|---|---|
| 尺: | 「漢和辞典」に古代中国の度量衡換算表が載っていて、魏代の「尺」は「24.12cm」となっている。それでいくと「三尺」は「72cm」、「四尺」は「96cm」。 |
| 四千餘里: | 「倭人伝」の里程でいうと、四千里は朝鮮の南北の長さ。それで見ると、九州北部辺りから南で四千里というと現在の沖縄諸島辺りになるのだろうか。(地図参照)。 |
| 裸國: | 「侏儒國」が意訳であるから、ここも意訳と考えて、「はだかの国」。 |
| 黑齒國: | これも意訳と考えて、「歯が黒い人の国」。 |
(備)東に海を千里渡ると倭人の国があるということは、女王の支配が及ばない地域ということだろう。その後の「侏儒國」は倭人の国ではないということか。さらに「裸國」「黑齒國」にしても倭人の国とは思えない。興味深いのは、最後の「船行一年」。当時1年も航海できる技術があり、そんな遠いところまで行って帰ってきた者がいたということ。ほかにも国は存在しているだろうに、なぜこの2つの国を取り上げているのか。
參問倭地,絶在海中*洲島之上,或絶或連,周旋可五千餘里。
訳
倭の地を尋ねると、海に囲まれた島に孤立しており、途切れたり繋がったりして、一周五千余里はあるという。
注
| 洲島: | 「洲」は「釋名」で「人及鳥物所聚息之處也」。 |
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(備)「參問倭地」なので、現地人に尋ねたのである。現地人が云うには「周旋可五千餘里」であるから、実際の大小とは違うと思われる。