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『新訂 魏志倭人伝・後漢書倭伝・宋書倭国伝・隋書倭国伝』
岩波文庫

魏志倭人伝を読み解す
- 習俗 -
2006年3月14日更新

- もくじ -
鯨面文身(いれずみ)
衣(きもの)
産業
軍備
生活

忌避
自然
卜占(うらない)
老若男女

鯨面文身(いれずみ)

男子無大小,皆面黥面文身。自古以來,其使詣中國,皆自稱*大夫。*夏后少康之子,封於*會稽,斷髮文身,以避*蛟龍之害。今倭水人好沈没捕魚蛤,文身亦以厭大魚水禽,後稍以為飾。諸國文身各異,或左或右,或大或小,尊卑有差。計其道里,當在會稽*東治之東。


男子は老若と問わず、皆顔体にいれずみがある。古代以来、倭が中国に使者を使わす際、皆自らを大夫と称する。夏后少康の子が會稽に封じられた時、髪を切り、いれずみをして(現地の俗に習い)、蛟龍の害を避けた。現在の倭の水夫は潜水して魚介を捕ることに長けるが、いれずみをするのはやはり大魚水鳥を嫌うのが始まりで、後にやや飾りの意味となった。諸国でいれずみには違いがあり、左にするところもあれば、右のところもあり、尊卑で違いもある。その道のりを計算すると、ちょうど會稽東冶の東である。

大夫:古代中国の官職。
夏后少康:夏王朝六代の王「相」の子とされる。
會稽:当時の行政区「會稽郡」、現在の中国浙江省から江蘇省あたり。
蛟龍:漢和辞典には「蛟」は「みずち」とあり、「竜の一種で四足があり、よく大水を起こす」とある。
東治:(地名)。治は冶の誤り。東冶県。現在の中国福建省閩(びん)侯県あたりとされる。

△もくじ

衣(きもの)

其風俗不淫。男子皆*露紒,以木緜*招頭。其衣*横幅,但結束相連,略無縫。婦人被髮*屈紒,作衣如*單被,穿其中央,貫頭衣之。


その風俗は淫ならず。男子は皆曲げを結い、その先に木綿を巻いている。衣服は横長の布を、ただ結んでまとっているのみで、少しも縫っていない。婦人の髪は折り曲げて曲げにし、衣服はひとえの寝衣ようで、中央に穴を開け、頭からすっぽり着用する。

紒:辞書に載っていない字だが、偏旁や発音などから想像して、現代北京語中の「結」のように、「結ぶ、結び目」の意味だろう。
露紒:むき出しで曲げを結っていることか。
招頭:「マゲの先を包む」という意か。現代北京語の「招」には「気遣う」という意味がある。
横幅:横長の四角い布。「幅」は「説文」で「布帛廣也(布が広いこと)」。
屈紒:髪を折り曲げて曲げにしていること。
單被:「被」は「説文」で「寝衣也」。

△もくじ

産業

種*禾稻、*紵麻,蠶桑緝績,出*細紵、*縑、緜。其地無牛馬虎豹羊*鵲。


アワ・稲、苧麻を植え、養蚕で糸を紡ぎ、細苧、細絹、綿を産す。牛馬虎豹羊鶏はいない。

禾稻:アワと稲。
紵麻:苧麻(チョマ、カラムシ)。「紵」は「説文」で「檾屬,細者為〔糸+全〕,粗者為紵」とされ、さらに「檾(イチビ)」は「枲屬(カラムシの仲間)」とある。いずれにしても麻の原料。
緝績:「説文」には「緝:績也」「績:緝也」とあり、どちらも糸をつむぐこと、すなわち紡績のこと。
細紵:「紵麻」から織った生地。
縑:細絹。「説文」には「并絲繪也」とあり、絹糸で色鮮やかに織った織物か。
鵲:カササギ。ただ「後漢書-東夷伝-倭」の注釈には「あるいは鶏」とあり、ここでも中国にある家畜の中で、倭の地にないものを挙げているのではないか。カササギだとしても、国語辞典に「日本へは一六世紀末頃朝鮮から持ち込まれた」とされており、つじつまは合う。

△もくじ

軍備

兵用矛、楯、木弓。木弓短下長上,竹箭或鐵鏃或骨鏃。所有無與*儘耳、*朱崖同。


兵は矛(ほこ)、楯(たて)、木弓を用いる。木弓は下を短く、上を長くし、竹の矢は鉄か骨製のやじり。その有無は儘耳、朱崖と同じである。

儘耳:郡名。広東省儘県西北三十里に位置するとされ、現在の海南島と思われる。
朱崖:郡名。広東省瓊山県東南三十里に位置するとされ、現在の海南島と思われる。

(備)最後の「所有無與儘耳、朱崖同」は、上述の「鯨面文身」、「衣」、「産業」もともに総括していると思われる。当時中国では、倭の習俗は多くの点で「儘耳、朱崖」と同じだと思われていたことを表す。これは日本の成り立ちを考える上でも非常に重要。

△もくじ

生活

倭地温暖,冬夏食生菜,皆徒跣。有屋室,父母兄弟臥息異處。以*朱丹塗其身體,如中國用粉也。食飲用*籩豆,手食。


倭の地は温暖で、夏冬問わず生野菜を食し、皆はだしで生活する。家は部屋が分かれており、父母兄弟は別々に寝泊りする。朱丹(赤い染料)を体に塗っているのは、中国で粉(おしろい)を用いるのに似ている。食物は籩豆に盛り、手で食べる。

朱丹:「説文」で「丹」は「巴越之赤石也」とされ、染料のことと思われる。
籩豆:祭りや宴会に用いる器。「籩」は竹製で果実などを盛る。「豆」は木製で塩辛などを盛る。

△もくじ

其死,有*棺無*槨,封土作冢。始死停喪十餘日。當時不食肉,喪主哭泣,他人就歌舞飲酒。已葬,擧家詣水中*澡浴,以如*練沐。


死にあたっては、棺(ひつぎ)はあるが槨(木の枠)はなく、土に埋めて塚を作る。死の当日から十余日間喪に服す。その際は肉を食べず、喪主は声を上げて泣き、喪主以外は歌い踊り、酒を飲む。弔いが終わると、一家全員で水中に入って体を洗い、禊(みそぎ)とする。

棺:恐らく木棺だろう。
槨:「椁」の異体字。「説文」で「椁」は「葬有木享也」とある。
澡浴:「澡」は「洒手也」で手を洗うこと。「浴」は「洒身也」で体を洗うこと。
練沐:「沐」は「濯髮也」で髪を洗うこと。「練沐」は体を清めるための一種の儀式かと思われる。

(備)ここに書かれている人を弔う一連の習俗は、3世紀かそれ以前の事柄であることから、まず(1)棺(ひつぎ)には枠がないこと、(2)土葬した後「塚」にすることに注目したい。現在までで発掘されている弥生時代の墳墓は、多くが甕棺をそのまま埋める埋葬方法(弥生時代前期)で、ここにあるのは、弥生時代終末期に見られる「木棺土壙墓」ではないだろうか。さらに(3)喪中は肉を食べない、(4)他者は歌い踊り、などからは、日常は肉を食べること、酒を飲むことなどが分かっておもしろい。どんな酒を飲んでいたのだろう。最後の水中で禊をするというのは、まさに現在も続く日本人の禊のようだ。

△もくじ

忌避

其行來渡海詣中國,*恒使一人不梳頭,不去*蟣蝨、衣服垢汚,不食肉,不近婦人,如喪人。名之為*持衰。若行者吉善,共顧其生口財物,若有疾病、遭暴害,便欲殺之,謂其持衰不謹。


海を渡り中国へ行く際、常に1人を喪中のように、櫛を入れさせず、虱や衣服の汚れを取らせず、肉を食べさせず、婦人に近づかせない。これを「持衰」と呼ぶ。航海者によいことがあれば、ともにこの人に家畜や財物を与え、病気や災害に遭えば、「持衰」をしっかりしていないとしてこの人を殺そうとする。

恒:「恆」の異体字。「恆」は「常也」で「常」の意。
蟣蝨:虱(しらみ)。「蟣」は「蝨子也」で、「蝨」は「齧人蟲也」。
持衰:潔斎、物忌み。

△もくじ

自然

出眞珠、*青玉。其山有丹,其木有*柟、*杼、*豫樟、*楺、*櫪、*投、*橿、*烏號、楓香,其竹*篠、*簳、桃支。有*薑、*橘、*椒、*蘘荷,不知以為滋味。有*獼猴、*黑雉。


真珠、青玉を産す。山には丹(赤い染料の石)が採れ、山の木にはユズリハ、杼、クスノキ、楺、クヌギ、モチノキ(またはマユミ)、ハリグワ、カエデがあり、竹にはシノチク、簳、桃支がある。ショウガ、タチバナ、サンショウ、ミョウガがあるが、それらを味わう(食する)ことを知らない。サル、キジがいる。

青玉:不明。翡翠のことか。
柟:ユズリハ(ドウダイグサ科の常緑高木)。「楠」と同義で、「樟科,常緑喬木」とされる。学名は「Phoebe Zhenan」。
杼:不明。
豫樟:クスノキ(クスノキ科の常緑高木)。「樟」はクスノキのこと。古書では「豫章」で木の一種を指し、単に「樟(クスノキ)」を指す場合もある。
楺:「康煕」には「屈木也。引易繋辭楺木為耒」とある。
櫪:クヌギ(ブナ科の落葉高木)。「櫟」と同義。
投:不明。
橿:①モチノキ(モチノキ科の常緑小高木)。②マユミ(ニシキギ科の落葉小高木)。「説文」で「橿」は「枋也。枋木,可作車」とされる。「枋」は「マユミ(檀)の一種」。
烏號:クワ(クワ科)。中国で「烏號之弓」と言えば帝王の弓のこと。「史記 卷一百一十七 司馬相如列傳 第五十七」の注釈に「案:淮南子云“烏號,柘桑,其材堅勁,烏棲其上,將飛,枝勁復起,號呼其上。伐取其材為弓,因曰‘烏號’”。古史考﹑風俗通皆同此說也。」とある。「柘桑」は「柘、柘樹」で、ハリグワ(クワ科の落葉低木)のことだが、原産は中国・朝鮮のようだ。(ハリグワ)。日本に自生する一般的なものはクワ(別名:ヤマグワ)。→ヤマグワ
楓香:カエデ(カエデ科の落葉高木)。中国ではフウ(マンサク科の落葉高木)を指す。
篠:シノチク。竹の一種。「廣韻」では「細竹也」。→竹の種類
簳:竹の一種。「廣韻」では「小竹也」。→竹の種類
桃支:竹の一種。「華陽國志・巴志」に「竹木之貴者有桃支、靈壽。」とあり、「桃支」が出てくる。「神秘的巴蜀文明」という文章中では、「桃支」を「竹の一種で、杖にできる」と説明している。→竹の種類
薑:ショウガ。
橘:タチバナ、ミカン。「説文」では「果出江南樹碧而冬生(江南で産する果実で、木が青くて冬物)」とある。
椒:サンショウ。「説文」では「莍也」。
蘘荷:ミョウガ。
獼猴:サル。「ニホンザル」か。
黑雉:キジ。キジの黒っぽい種類と思われるが、「全日本雉類研究会」をご参照願いたい。

(備)植物や動物というのは特定が難しいが、ここでは中国語が本来指す動植物に忠実に特定してみたつもりだ。

△もくじ

卜占(うらない)

其俗擧事行來有所*云為,*輒灼骨而卜,以占吉凶。先告所ト,其辭如*令龜法,視火*坼占兆。


習俗として、行事や往来(外出)には習わしがあり、その度ごとに骨を焼いて吉凶を占う。まず占った結果を告げるが、その言辞は「令亀」のごとく、焼いてできた裂け目を見て兆候を占う。

云為:習わし、決まりごとの意と思われる。
輒:その度ごとに。「増韻」では「忽然也」、「韻會」では「毎事即然也」。
令龜:「令」には「命令」という意のほかに、「吉祥」という意味もある。「令龜」は恐らく中国古来の亀の甲羅を焼く占い方法のこと。
坼:裂ける。「説文」で「裂也」。

(備)日本人も古くから占いが行われていたのがおもしろい。その方法も、中国のものによく似ている。

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老若男女

其會同坐起,父子男女無別。人性嗜酒。[一]見大人所敬,但*搏手以當脆拜。其人壽考,或百年,或八九十年。其俗,國*大人皆四五婦,下戸或二三婦。婦人不淫,不妒忌。

[一]魏略曰:其俗不知*正歳四節,但計春耕秋收為年紀。


集会に父子・男女の区別がない。酒を好み、身分の高い人に会って敬意を表するのに、ただ手を合わせることで拜脆したことになる。人の寿命は100年とも80~90年ともいう。風俗としては、身分の高い人は4~5人の妻、その家来で2~3人の妻を持つ。婦人は淫らではなく、嫉妬もしない。

[一]魏略曰く、倭人は暦を知らず、春に耕し秋に収穫することで年を数える。

搏手:「搏」は「説文」で「索持也」。両手の指を組んで合掌することか。これは酒の席での「無礼講」のことか。
大人:身分の高い人。
正歳四節:暦。「正歳」は「正月」のこと、「四節」は恐らく春秋時代(前770 - 前476)に定められた「仲春」「仲夏」「仲秋」「仲冬」のこと。

(備)興味深いのは(1)集会に父子・男女の区別がないこと、(2)寿命が100年、80~90年あること、(3)一夫多妻であること、だ。(1)はまだ儒教が入っていないため、(2)気候が穏やかで、生活にも余裕があるため、(3)はそれが身分の高低や経済的豊かさとは関係ないこと、などが想像できる。

△もくじ


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